2015年12月27日日曜日

「大学の授業料と奨学金」

Bonjour!

神戸大学大学院に所属しています、鈴木太郎です。南仏マルセイユから北東に60kmのところにある、フランス原子力・代替エネルギー庁の研究施設Cadaracheで、4ヶ月だけ植物のセシウム吸収についての研究のお手伝いをさせてもらっています。

神戸では学費・生活費・下宿の家賃などの大半の費用を両親に負担してもらっていたのですが、こちらではフランス政府給費と原子力庁からの分を合わせ、家賃を含めおよそ月17万円の補助をもらって生活しています。ぼく自身はフランスの大学に所属しているわけでもないので特殊かもしれませんが、一学生として返還義務のないお金をもらい、その上で銀行や公共交通機関、各種施設で金銭面での優遇も受けられる状況が、日本にいるときと比べてまったく違うことに驚きました。そこで、今回は大学の学費や奨学金などを中心とした、日本の大学生のガラパゴスな懐事情について書きたいと思います。

【日本の現状】
まずは、最近の地方国立大生(学部・下宿)の懐事情について。日本学生支援機構JASSOが、2012年に行った無作為抽出型の調査[1]によると、1年間の学部学生の学費・生活費の合計額はおよそ190万。1月あたりに換算すると、16万程度を支払わなければならないことになります。極端な話ですが、時給800円のバイトを毎日6時間続けても、この金額を支払いきることはできません。学問に集中して取り組むための経済的余裕を確保するために、奨学金の存在は必要不可欠です。2012年の調査によると、奨学金を受けている学生の割合は、学部生でも52.5%と、全体の半数を越えています。


奨学金は返還の必要ない給付型と返還が必要な貸与型に分かれており、日本ではJASSOによる貸与型奨学金(第一種、第二種奨学金)がメインとなっています(枠は狭いが給付型のもわずかには存在)。

1ヶ月で借りられる第二種奨学金は学部では12万までで、[2]これだけでも月16万を払いきることはできません。しかし借りてしまった場合は、4年間で利子も含めて最大で600万近くの借金を返さなければならないことになります。

学部卒でうまく就職が決まり、順調に返せるのならいいですが、就職がうまくできなかった場合や病気などで途中退職を余儀なくされた場合、また大学院に更に進む場合などは負担が重くのしかかってくるでしょう。お金が理由で大学院への進学を諦めざるを得ない人たちが、ぼくの身の回りにも存在しています。家族の援助なしで高等教育を受けるのは、日本ではとても難しい状況なのです。

【世界の状況】
では他の国ではどうでしょうか。OECDが2014年に行った調査[3]に、授業料縦軸にとり、奨学金で補助を受ける学生の割合を横軸にとったグラフがあります。日本と同レベルの学費の高さであるアメリカ・イギリスなどは日本よりはるかに多くの人が奨学金の恩恵を受けていることがわかります。



次のグラフ。縦軸を学費を全体とした時の給付額の割合とし、奨学金などの給付額の内訳を見たものです。イギリスやアメリカでは給付型奨学金の割合が高く、学費の一部を支払わなくてもいい仕組みになっているが、日本はほぼ全額「学費ローン」ということで、いずれは払わないといけなくなっています。


世界的に見ても高い学費を、誰もがほぼ全額自己負担しなければならない国というのは世界的に見ても珍しいのです。

国連の社会権規約の、第13条2項c[4]には、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」とあります。日本はこの条約を結んでいますが、現状を見る限り、高等教育における無償教育の導入は漸進的なレベルですら進んでいないと言えます。

日本の国公立大学では、更なる学費上昇へのうごきもあります。[5]給付型の奨学金を整備せずこれを実行してしまうと、さらに多くの人が経済的事情で大学進学を断念せざるをえなくなることが予想されます。

人間の「当たり前としての権利」として、学生の学費負担が軽減するような世の中を望みます。


太郎
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[1] JASSO, 日本学生支援機構「平成24年度学生生活調査」, Access:
http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html
[2] JASSO, 大学で奨学金の貸与を希望する方へ, Access: http://www.jasso.go.jp/saiyou/daigaku.html
[3] OECD, Education at a Glance 2014, October 2014, Access: http://www.oecd.org/edu/Education-at-a-Glance-2014.pdf
[4] MOFA, 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約), Access: http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2b_004.html
[5] 大学ジャーナルオンライン, 授業料が私立大学より高くなると国立大学が一斉に反発, December 15, 2015, Access: http://univ-journal.jp/3704/

2015年12月14日月曜日

「2015年カナダ総選挙」

こんにちは
 
僕は現在、カナダの東海岸に位置するニュー・ブランズウィック (以下 N.B) という小さな州で大学に通っています。カナダと聞くと、ロッキー山脈や氷河によって形成された奇麗な湖をイメージするかもしれませんが、僕の住んでいる地域はそのような景色とは無縁の所です (笑)。お馴染みのバンクーバーまでは飛行機で半日かかるし、オンタリオ州に位置するカナダ最大の都市トロントへも飛行機で2時間半ほどかかります。ようするに多くのカナダ人にとってもあまり馴染みのない小さな州、それがN.B州です。ただ、小さな州が集中している東海岸には、入植した頃の独特な文化の面影も残り、数々のユニークな方言も点在していて非常に面白い所です。またN.B州は英語圏とフランス語圏の狭間のバイリンガルな州なので、日常生活の中で文化の融合を体感できます。
 
潮の満ち引きが見どころのBay of Fundy, N.B.州 | All Canada Photos
 
国内でも最大4時間の時差が発生し、国土面積も日本の26倍以上と広大なカナダ。税率や法律も異なり、州間での経済格差なども発生していて、「州」というのは「都道府県」の概念とは大きく異なります。一般的にフレンドリーなカナディアンですが、州によって町の雰囲気や、外国人人口の占める割合、生活様式に多様性が出てくるのがカナダの面白いところです。
 
そんなカナダですが、今年の10月中頃に行われた2015年の連邦議会選挙では“戦略的投票”が呼びかけられ、多くの国民の見事な結束が見受けられました。約10年に渡って政権を担ってきたカナダ保守党ですが、今回の選挙では低迷を続ける国内経済への具体的な打開策、シリアを含む中東地域での軍事的関与、シリア難民受け入れ、又TPP参加の有無などが議論の争点になっていました。結果的に保守党から中道左派のカナダ自由党への鮮やかな政権交代を成し遂げたカナダですが、その陰には多くの有権者の葛藤が存在しました。大きな要因の一つはカナダの完全な小選挙区制選挙制度。反・ハーパー(保守党の党首)の世論が高まっていましたが、各区で1人しか当選できない小選挙区制選挙で有権者が安易にそれぞれの第一支持政党へ票を投じることは、結果的に票が分散し、自分たちが望まない与党(保守党)候補を当選させてしまうリスクを伴うものでした。
 
僕は法律の専門家ではないので、この場では選挙制度の分析ではなく、一外国人としてカナダの選挙を見つめていた者としての感想に徹したいと思います。まず注目したいのがこういった状況下(共有された、政権への危機感の存在と、選挙制度を考慮した投票先選択の必要性)での国民一人ひとりの意識が非常に高かったこと。僕の大学の生徒会は選挙区の候補者を招き、学生の為に演説会を開催し、大々的な“選挙に行こう!”キャンペーンを実施しました。キャンパスでも日常的に生徒間の選挙の話を耳にしたし、SNS上でも数多くの議論がなされていました。
 
大学新聞2015年10月8日 | The Argosy
 
今夏の日本の安全保障関連法案の成立について、推進派の「選挙によって選ばれた政治家の作った法律なのだから仕方がない」という趣旨の発言を何度か耳にしました。これは悔しいけれど、一理あるとも思いました。国民の民意を出忠実に反映させるのは難しいことだと理解した上で、もちろん1票の重みを均一にして、死票となってしまう選挙制度は改善しなければいけないと思います。でもまずはこの慢性的に、“日常生活と政治への関連性を見出せなくなってしまっている”多くの友人・知人たちに政治参加の重要性を知らせていきたいです。選挙制度の改革を求めると同時に、自らが考えて政治に参加しているカナダの人たちを見ていて改めてそう思いました。選挙権の行使を“義務”と言い切ってしまうのは難しいのかもしれませんが、国民が担っている役割について、日本でも一人ひとりがしっかりと考えてゆくべきだと思います。
 
今回の選挙の投票率は69.1%を記録し、前回2011年の選挙から8%の上昇がありました。[1]選挙制度の改善を呼びかける動きも起こっています。
 
カナダ色の新内閣 | Politicl 


千廣
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[1] Elections Canada, “Election Night Results - National,” October 19, 2015, Access: http://enr.elections.ca/National.aspx?lang=e